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かみや (2005年の食レポートです)

曙橋

 きっちん築地というスナックがある。道路拡張で立ち退いたため現在は銀座にあるが、昔は名前のとおり築地にあった。このスナックは夕方から朝の6時ぐらいまで営業をしていて、とにかく安い。  

 場所柄、料亭で仕事を終えた板前さんや国立がんセンター、聖路加病院の看護婦さんが深夜によく来ていた。私も会社が近いためたまに利用していた。何度も行っていると、お客さん同士で顔なじみとなる。そして松ちゃんという料理人と知り合った。

 松ちゃんは板前の修業中だ。寿司屋や割烹料理店などいくつかのお店を渡り歩いている。いつだったか松ちゃんは、お台場の某ホテルの中にあったお店で働いていた。このお店、昼めしでも2千円以上、当然、夜は最低でも1万円はするという高級店だった。

 しかし、バブルがはじけて不景気のため、ホテル側が高級なお店よりも大衆居酒屋にした方が儲けるとにらみ、お店は閉鎖されることになった。その閉店3日前、松ちゃんが多少のサービスはしてくれるということもあり、このお店へとある女性と出かけた。このとき私はビール1本ぐらいはタダで飲ませてもらえるだろうと思っていたが、それはとんでもない間違いだということに3時間後気付くことになる。

 お店は小奇麗で女性店員は着物。それほど高級店には見えなかったが落ち着いた雰囲気だった。席についてメニューを見ると、予想以上に高い。

 一番安いものを頼むと足元を見られそうだったので、1万2千円のコースにした。そして、店員さんに松ちゃんに私が来たことを伝えるようにお願いした。すると、すぐに松ちゃんがやってきて、「本日の料理は私に任せてください」と言う。そう言われれば「お願いします」と言うしかない。さてさて、どんな料理が出てくるのだろう、とビールを飲みながら楽しみに待っていた。

 次々に出される料理は明らかに1万2千円コースとは違う。間違いなく、メニューの中の最高のコースだ。味は文句なしに美味い!

 しかし、美味いのはいいがいったいいくら取られるのだろうという不安もあった。まともに食べれば、飲み物やサービス料を含んで間違いなく8万円はする。若干のサービスはあるから5〜6万ぐらいだろうか。とりあえずカードはあるので何とかなるから、ご飯おかわり!

 たらふく食べて、注目の会計である。なんと会計はたったの6千円足らず!

 このとき私は、本当は6万円なのに間違えて6千円と言っていると思った。だから、レジ係が間違いに気付く前に、そそくさとお金を払い、出口でお礼を言うために待っていた松ちゃんともろくな会話をせず、逃げるようにお店を出た。

 ホテルを出てあらためてレシートを見てびっくり。本当に6千円だったのだ。レシートには飲み代と前菜しか掲示されていない。おおっ、最高のコースメニューを食べたのに前菜しか食べていないことになっているのだ!

 どうやら、食べ物については厨房の申告により計算するので、松ちゃんの配慮で前菜だけしか食べなかったことになったようだ。後から分かったことだが、この日は料理長が不在だったので、松ちゃんも最高の配慮ができたようだ。お礼もろくに言わずにお店を出て、失礼なことをしてしまった。

 ちなみに、前菜だけで2千円以上するのだから、このお店がいかに高級店だったかがわかるだろう。

 松ちゃんはその後いくつかのお店を経て、今はかみやで働いている。

 初めてかみやに行ったのは昼めし。昼めしと言っても5千円のコースをお願いした。旬の素材を使った美味しいお店だ。一緒に行ったKちゃんも大喜び。

 そして、またもサービスしてくれた。ビールを数杯飲んだにも関わらず、料理分だけの料金となっていた。ちなみに、その後は普通にお金を取られている。・・・って当たり前じゃ!

 かみやの話をするつもりが、ぜんぜん違う話になってしまった。


 2005年4月にお店に行ったら、松ちゃんはいなかった。地元の岩手に帰って、お店を開いたらしい。以前から、自分がお店を持つならこんなふうにしたい、と語っていたが、それは実現できたのだろうか?

 岩手まで行かねば・・・

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