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 人間ドック

 私の会社はある年齢に達すると人間ドックに入るようになっている。必ず行かなければならないというわけではないが、会社が何万円もする医療費を負担するのだから、利用しないわけがない。

 会社指定のドック機関は複数あるが、多くの人が一番町のドック機関を利用する。ここのドックは検査費用が高くて、会社の負担金だけでは足りない。自己負担があるが、それでも多くの人がここを薦めるので私もこのドック機関を選択した。兼好法師も徒然草で「先達はあらまほしきことなり」って言ってるしね。

 ここのドックは人数制限がある。そのため、1ヶ月ぐらい前から予約をしておかなければならない。予約後しばらくすると問診表などが入った案内が送られてくるのだが、事前にウンチを採取するための容器も入っている。ドック受信日も含めて3日以内に2日分のウンチを採取しなければならない。

 ご丁寧にも、ウンチが便器の水の中に埋もれないような、ウンチングスタイルの図解付き(笑)

 しかし、困ったことに我が家の便器は小型であるため、便器内にウンチをすれば必ず水に浸る。私は諸先輩方にどうやってウンチを採取したのかを聞いたが、誰も詳しくは教えてくれない(当たり前じゃ)。しょうがないので、新聞紙の上にウンチをして、送られた採取機器を使ってウンチをゲット。

 はっきり言って、朝ごはんを食べ終わって、会社に行く前にウンチを突っつくのは情けないぞ!

−−− このような苦労を経て、ついにドック当日 −−−


 朝9時に指定のドック機関へ。綺麗なビルだ。まずはサロンのようなところに案内される。そして甚平みたいな服を渡され更衣室へ。この甚平、ズボンは後ろ前が分からずダブダブ。紐がないので、歩くときは抑えてないとずり落ちてしまう。上着は紐がついているのだが、ほとんど前がはだけている。実は上着の方は、着方が間違っていて後でちょっと恥ずかしい思いをするのだが、とりあえず、すごくだらしない格好でサロンへ。

 このサロンには私を含めて9名のドック受信者がいた。もうこれで定員。少ない人数でゆったりと進行していくわけだ。サロンは20畳以上はあるフローリングに1人ひとつのソファ。雑誌や新聞もある。ドック受信者の中には、17年連続という人もいた。このようなドックが趣味の人はけっこう多いらしい。

 社内で顔を見かけたことがある人も数人。さすが我が社でよく利用されているところだ。なんと大阪本社のO部長もいるではないか! 昨日がシステム系の部長会で、そのついでにドック受診に来たという。大阪に住んでいるのだから大阪で受けろよ、と思ったが、他にも大阪から来ている人がいた。それほど、ここのドックはいいということなのだ。

 サロンにドック受診者が全員揃ったところで、所長とスタッフの挨拶。所長はおじいいちゃん先生。先生の話から年齢は70代後半と推定されるが、非常に若い。後で分かることだが、この先生、かなりの健康オタクである。

 ドックでは、身長、体重、採血、レントゲンなど、普通の健康診断と同じことも行われる。その他は、心電図検査、腹部超音波検査、胃レントゲン、前立腺検査・・・・など。面白かったのは握力測定。こんなこともやるのか?

 しかし、ショックだったのは、握力が高校時代より10数キロも減っていたこと。さらに、なぜか利き腕でない方が高い。まあ、朝起きてまだ1時間ぐらいで、腕に力が入らないからこんなものなのかな。でも、肺活量は5,000ccを超えて、看護婦さんから驚嘆の声。こちらは高校自体より1,000cc以上増えた。人間の身体って不思議なもんである。

 検査は続く。おじいちゃん先生との問診では、聴診器を胸に当てたとたんに、何かスポーツをやっているのかと聞いてきた。

私「週に1度ぐらいジムに行って走ってます」

先生「昔は?」

私「野球と陸上をやっていました」

先生「スポーツをやっている人は脈が少ないからすぐに分かるんですよ」

私(おおっ、さすがだ)

先生「どのくらい走るのですか」

私「1時間で10キロぐらいです」

先生「ほぉー、ずいぶんと早いね」

私「いえ、遅いほうですが」

先生「しかし、ジョギングは勧められないな」

私(何で)

先生「ジョギングは死ぬこともある。先日のマラソンでも2人死んだし、高円宮さまもスカッシュで亡くなったでしょ。同じことなんです。アメリカではジョギングよりも負担が少ないエクササイズ・ウォーキングになっていますよ」

私「そうなんですか・・・(俺もポックリ行くのか?)」

 私を不安にさせる問診が終わり、甚平の上着をまただらしなく着る。先生は「どうぞ、あわてずに着てください」と言うが、まだ、私は甚平の着方が分かってなかった。

 ドックは淡々と進む。他の人が受診している間は、サロンでゆっくりとくつろいで雑誌を読む。楽勝だ、と思っていたら、そうはイカのキンタ○。

 胃のレントゲンを取る前に、胃の動きを止めるための注射が打たれる。これはけっこう痛い。そして、バリウムを飲む前に、レントゲン技師から甚平をちゃんと着るように注意された。ここで初めて着方が間違っていたことに気付いた。ちゃんと着ればジャストフィットするではないか。ずっとだらしない格好で検査を受けていたと思うと情けない。

 さてバリウムである。バリウムはストロベリー味ではあるが、非常にまずい。ねっとりとした液体で舌にまとわりつく。飲めば飲むほど気分が悪くなる。さらに、レントゲン室の隣の操作室からは、体を向きを変えろだの、バリウムを飲めなど、五月蝿く指図される。全部飲み干せと言われたが、吐き気がして全部は飲めなかった。

 バリウムを飲み干した後(飲み干したフリをした後)、背中をつけていた板が、倒れたり、斜めになったりする。操作室からは、またも腹ばいになれだの、少し横を向けだの、細かい指示。台は斜めになったりするので、転げ落ちないようにするのがたいへん。実はこの検査が終わるまではゲップをしてはならないのだが、動き回るから押さえ込んでいたゲップも、つい油断して出てしまった。そもそも、これだけ動き回ってゲップを我慢できるのか?

 後で、レントゲン写真を見せてもらったが、非常に綺麗な胃であるらしい。先生は、これが胃でこれが十二指腸と指差しながら説明していくが、ぜんぜん分からん。まあ、健康であるならそれでよい。

 辛い胃レントゲン検査が終わると口をゆすいで下剤を飲む。サロンで休んでいると、日本茶が運ばれる。おおっ、昨日の夜から何も食べることができなかったから、日本茶でも嬉しい!

 そして。ついにやってきた。もっとも私が恐れていた検査。そう、前立腺検査だ。部屋に入ると、さっきのおじいちゃん先生が、「人間ドックは初めてだから、初体験だなー、フォッフォッフォッ」。

 笑い事ではないぞ。ベッドに横になり、先生にお尻を突き出す。先生はなれた手で肛門に油を塗る。そして、指が入る。

 う〜、気持ち悪い!

 先生は、ここが何だとか、いろいろと話しながら、肛門の中で指をこねくり回す。

 早く終わってくれー!!!


 検査が終わっても肛門に違和感が。ウンチしたい気分だが、昨日から何も食べていないので、出るわけはない。

 前立腺検査が終われば食事。サロンでドック受診者全員とおじいいちゃん先生が一緒にお弁当を食べる。この弁当、なかなかうまい。1,500〜2,000円と見た。弁当のあとはみかんのデザート付き。食事中は先生がいろんな話をしてくれる。生と死についてや、日ごろの健康留意方など豊富な話題で面白い。

 穀物はよく噛んで唾液で消化しないと腸に負担がかかるが、イカやタコは酸があるから問題ない。黒マグロはダイオキシンが多いから2キレまで。肉は食べたほうがいいが、牛肉はやめて生命の源である豚肉にした方がいい(先生は毎日豚肉60gを食べる)など、食材へのこだわりも多い。いろいろと聞いていると、どうもこの先生は健康オタクである。そこまでするか?というほど健康にこだわっている。でも、それだけ若い。

 先生はドックを始めてちょうど40年。超ベテランである。人間ドックという制度自体が新しいので、ほぼ創設に近い人である。先生自ら、「昔はこんな制度はなかった。始めたのが私」と言っていたが、帰るときにもらった人間ドック誕生秘話という本には、この先生の名前は載っていなかった(笑)。まあ、ドック創設時期の先生であるのは間違いないが、それだけに、ドックそのものについてもこだわりがある。何十人も並んで行うようなドックを「イモ洗いドック」と一刀両断。それほど、ここはしっかりとしたところなのだ(と思う)。

 先生の話の中で、またジョギングはよくないという話が出たので、質問をした。

私「きついからと言って、すぐに運動をやめるようなスポーツマンはいないでしょう。ポックリ行く前にどのような兆候があるんでしょうか?」

先生「分かりません。だって死んでいるのだから」

私(確かにそりゃそうだ・・・)

先生「ただし、生き残っている人の話では、内臓に何らかの違和感があるらしい。走っているときは腕や足には血液が行くが、内臓には行かない。何か違和感があったらすぐにやめるべきでしょう。やるんだったら、脈を計りながらやりましょう。高円宮さまは無理をされたのでしょう」

 確かに、ランニングマシンには脈の測定器を付いているけど、一流アスリートのトレーニングじゃあるまいし、普通使うものか? まあ、私は根性がないから、決して無理して走るなんてことはしないから、ポックリいくことはないだろう。

 食事後、採血や目の検査、レントゲン写真を見ながらの解説などを経て、最後の総合判定へ。と思ったら看護婦さんが、保険証を持ってきたかと聞く。どうやら、採血の結果、一部問題があって追加の検査を行うようだ。ちょっと不安になる。

 さて先生のところに行くと、全般的には問題なし。気にするほどのことではないが、不整脈らしい。さらに、貧血だと言われた。そのため、ここでもう一度検査することに。私はてっきり採血でもするのかと思っていたが、ちょっと話をしただけで、社内のクリニックでちゃんと診てもらうというのが結論。

 これでドックのすべてが終わり。受付にいくと追加料金550円を請求された。550円は貧血の追加検査料金とのこと。

 ちょっと待て!

 どこが検査なのか。もともと総合判定として最後に先生の話を聞くことになっている。採血をしてもらったわけではない、貧血の話をちょっとしただけ。これで金を取られるの?

 おじいちゃん先生は、ドックで貧血とういことが分かってよかったよかった、と天下泰平のようなことを言っていたが、納得いかんぜよ!

 帰るときにもらった「人間ドック誕生秘話」という本も「暮らしと健康」という雑誌も、ここのドックが発行したもので、ちゃっかりと定価まで付いている。

 けっこう、ぼってんじゃん!


 しかし、それでも、他のドック経験者が言うには、ここのドックはかなりしっかりとしているらしい。

 いったいどうなってんだ、日本の医療機関よ!

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